……? …
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      



 そのまま二階建ての民家が収まるんじゃなかろうかというほどの、ずば抜けた広さと高さがある吹き抜けが豪勢で。そんなホールのほぼ半分以上を、大きな格子窓という印象のガラス張りの壁が囲んでいる作りも豪華なそこは、一見すると“礼拝堂”構造になっており。その大きな窓から降りそそぐ晩秋の陽射しが、静謐で厳粛な空間を柔らかな金色に染め上げている。正面奥の段差の上には瀟洒な十字架が掲げられ、幾つも列になっている、講義室のそれのような長机を左右に割って、中央部分に赤じゅうたんを敷いたバージンロード、と来れば。

 「庭の紅葉がきれいですが、
  構図の中へ入っちゃっちゃまずいですかね。」
 「微妙なところだな。角度に工夫しようや。」
 「天井、開放しますか?」
 「いや、それは後で撮れるだろ。」
 「モデル花嫁、入ります。」
 「おー。」

 撮影プランだろう、絵コンテの綴られたファイルを手に打ち合わせている人たちがいたり。照度計片手にライトのセッティングに立ったり座ったり、花束やアクセサリーなど小道具を抱えて右往左往したりする人らがいたりと。何人もの人たちが何やら落ち着かぬ忙しさにわたわたしている空気の中。長々とした純白のドレスの裳裾を、邪魔だからか汚さぬようにか、自分の腕へ巻きつけるようにしてからげ上げ。その分だけ足元がちらり覗いて涼しげ…という、こちらさんもまた微妙に珍妙な格好にて。金髪に白い頬した、それは美々しくも若々しい花嫁が、すっきりと背条を延ばしてのすたすたと、そちらはスタイリストだろう男女を数人ほど引き連れてやって来て。

 「おお。」
 「お嬢さん、背ぇ伸びたねぇ。」
 「つか、春より大人びてない?」

 主役はこの広間そのものもだが、それでもこの華やぎようで、場はますますのことテンションを上げる。まだ本番ではないものか、化粧も淡いし、髪のセットも途中だったようで。ベールもかぶらぬままという、明らかに“完成前”な様子の花嫁さんなのへ。腰まであるカフェオレ色のチュニックにくしゅくしゅしたロングスカーフ、スリムなシルエットのパンツといういでたちの白百合さんと、パルキーセーター風のカットソーにコーデュロイの短パンと膝まであるジレという、ちょいレトロを狙ったようないでたちのひなげしさんが、明るい表情で駆け寄って、

 「わあ、久蔵殿、綺麗…vv」
 「本当にvv」

  やっぱりドレスですよねぇ。華やかだったら。

  そうですよね。
  あ、でも、シチさんところは
  お父様が白無垢がいいとか言いませんかね。

  あ、言い出しそうかも。

 でもでも、披露宴の最初なんかはやはり純白のドレスですよね。ええ、ええ、こういう格好って、そうそう出来るもんじゃありませんものねぇ…などなどと。お友達の麗しい姿を、夢見るような眼差しにて見つめつつ、誉めそやする彼女らだが、

 「…五月祭。」
 「あれは別です。」

 そんな指摘が出来るほど、花嫁さんが一番冷静なのも道理で。言わずもがな これは単なる撮影だから。用意されてあったパイプ椅子へと腰掛けたところで、さあ仕上げだとばかり、二人がかりでの左右から、メイク用のブラシを繰り出されたけれど。彼女の側でもそれこそ慣れておいでか、特に動じもしないまま、会話は続き、

 「島田はどっちと。」
 「そそそそ、そんなこと、まだ訊いてませんったら。/////////」
 「まだ?」
 「久蔵殿っ!/////////」

 何せ、紅ばらさんは言葉が至極簡潔で。とはいえ、そのくらいは、白百合さん以下、周囲に居合わせた面々にすりゃあもう慣れてもおり。彼女が何を言わんとしているのかは すぐさま理解へ届く。届いたものの…と、これまた即妙に焦りつつ、何てこと言い出しますかと、真っ赤になって返す七郎次お嬢様なのであり。

 「………。///(ぷくく)」×@

 天然同士の会話だけに、わざわざ笑えることを持ち出しているつもりはない二人だと。それこそこちらも慣れている周辺としては何とはなく判るので。

 “………笑っちゃいかんのだろか。”
 “そりゃそうだろ、何たって“大手様”だぞ。”

 有名ホテルの専属コンサルティングという大きな仕事。そんな大口クライアントのご令嬢が相手だ、機嫌を損ねてしくじってはなるまいぞと。必死で笑いをこらえるがゆえ、口許が微妙に歪んでおいでの、メイクさんやスタイリストさんたちの苦悩っぷりがまた、

 “あらまあvv”

 こそり気づいた ひなげしさんに、大きにウケていたりして。そんなにぎわいに沸く、撮影の主役を取り囲む輪からは少々離れた辺りにて。こちらさんはスーツ姿の若いのが、祭壇に上がる階段の端に腰掛ける格好で、撮影の責任者と言葉を交わしておいで。

 「来年度のジューンブライド用の撮影か。」
 「ああ。」

 もっと詳細を言うならば、ここ、ホテルJの来年の初夏からの、ウェディングプラン用パンフレットに使われる写真を撮影に来たお歴々であり。礼拝堂はさほど大きな模様替えもしないものの、ドレスやアクセサリーには そのときどきの流行もある上、式の形態の方も、華やかになったり地味になったりとその変遷は目まぐるしいため。年度毎に新しいのを新調しておいでなのだとか。久蔵お嬢様が高校生になってからは、彼女がモデルを務めるようになった云々はいつぞや話題にしたけれど、

 「パンフだけじゃない、
  ウェディング部門のプロデュース全般、ずっとウチが請け負ってる。」
 「それで“結婚屋”なのか。」

 あの寡黙なお嬢様らしいなと、やっと納得したらしい征樹殿。そこのところも詳細を言うならば、ウェディング関連の事業をこなしているのは彼の実家で、そういった表向きの業務も勿論のこと、手伝ってはいるけれど、

 「……実体は 特殊なビジネスエージェントってか?」

 視線は皆様のほうへと向けたままの佐伯刑事が ぼそりと言えば、

 「そんなカッコのいいもんじゃねぇさね。」

 やはり視線は同じ方向を向いたまま、こちらはややカジュアルな色合いのジャケットを羽織っておいでの、良親さんがぽそりと応じて。

 「…言っとくが褒めても認めてもねぇからな。」
 「だろうねぇ。」

 くつくつ笑った応対といい、何とも暢気な会話に聞こえるが。刑事の征樹さんが、職務中にもかかわらずこんな場に来合わせているのは、例の騒ぎの事情聴取のためだ。

 「残りの関係筋もお縄にしたんだろ?」
 「まぁな。」

 あの場にいた実行犯たちのみならず、彼らへの指示を出していた大元の黒幕まで。連絡手段を逆探知し、燻り出しての有無をも言わさず“現行犯”扱いで逮捕済み。本来ならば、三木家の令嬢が攫われる手筈となっていたらしき、こたびの運び。女学園の内部構造を調べ、学校行事を調べ…と、準備万端、様々に周到に構えたその上で。人目につかぬよう小人数にて俊敏に運ぶべく、学内にまで内通者を設けてまで…という、それは密な仕儀であったようだったけれど。いざ実行の段となったところで、思わぬ要素が飛び込んで来の、もっと周到な存在であろう、大胆不敵な“間者”が紛れておりのと。発動してから さてどれほどの刻限を数えられたことやらという速やかさにて、あっさりと畳まれてしまったところがまた物凄く。

 『良親様は、久蔵殿とお知り合いだったんですね。』

 意外なお人との顔合わせに、ついつい舞い上がってしまった七郎次の心持ちが何とか落ち着いたところで。誰と誰がどういう知り合いなのか、いつからの縁があって顔見知り同士なのかを障りのない程度に刷り合わせたところが、問題の新顔様、先に紅ばらさんと知己同士となっておられた奇縁が明らかとなり。まあまあそれはまあと、感慨深げな声を出していた白百合さんで。とはいえ、当の久蔵はと言えば、

 『やはり あのお巡りは。』
 『これこれ、お嬢さん。』

 ちゃんと“お巡りさん”とか“巡査”とか呼ばなきゃダメだよと、いけしゃあしゃあ、訂正なんてのを繰り出した美丈夫さんだったけれど。そんな彼こそ、昨年の学園祭にて彼女らを引っ掻き回した怪しい巡査だったことが、まずは俎上に上げられたのも無理はなく。その上で、

 「実をいや、その偽警察官騒ぎが、
  ほぼ直後に、
  こちらの総帥様にあっさりと押さえられてしまってね。」

 「…お。」

 人と人としての顔合わせは、それより2年前の。久蔵お嬢様との形ばかりのお見合いが発端で。こちらへ出入りの業者の中、年齢的にも背景的な何やかやも釣り合いそうな若いのだということで、よろしかったら…とお声をかけていただいた。何と言っても高校生になったばかりだったお嬢様、成程、単なる練習台にとの抜擢らしいなというのは薄々感じ取れもしたので。それならお安い御用ですよと、引き受けたところが、

 「まさかまさか、あの南軍の死胡蝶さんだったとはサ。」
 「そういや、お前は遭遇しとったんだってな。」

 前世といやぁの あの大戦下、北と南という遠い彼岸に離れていた相手…のはずが。特別候補生とかいう格好で参戦していた久蔵と、哨戒中にばったりと鉢合わせたことがあった良親で。ほんに困った縁があったものだが、

 『…ちょっと待てよ。』

 勘兵衛が警視庁の捜査一課強行係の警部補だというのは、胸張って言ってちゃあいけないが、そういうお人と行動がかぶっちゃならないと、しっかとチェックしていたことで。すぐ傍らにいた佐伯刑事にも気がつきはしたものの、その折はそこまでしか注意を払わなかった。ところが…三木家の令嬢という格好で転生していた、それは意外なお人とご対面したことから、まさかまさかと、もう少しほどそのチェックの範囲を広げたところが、

 “まさか、おシチまで転生していようとはね。”

 細っこい肩へと降ろされた金絲が、大きな天窓から降りそそぐ陽を浴び、周囲へまで光を振り撒くほどの輝きを見せていて。青玻璃の双眸に透き通るような白い肌という繊細な風貌が、言葉づらは同じでも やはり少女のそれであった方が可憐なものだなと。かつての青年士官のじゃじゃ馬っぷりを思い出しつつも、そこへ重ねるにはやや質の異なる麗しさへ、仄かに苦い微笑を向けてから、

 「さすがは、三木コンツェルンを一代で此処までの規模に仕立てたお人で。
  その彗眼も半端じゃあなかったってところでね。」

 綺麗事ばかりでのし上がって来れた訳じゃあないのだと、その辺りは明け透けに言ってのけた その上で、

 「時折 微妙に行動派なお孫さんなんで、
  理不尽な無理融通を利かせろとまでは言わぬが、
  大怪我をせぬよう、眸を配ってやってはくれまいかと頼まれた。」

 「ほほお。」

  何だよ、その言い方。

  なに、お前の言うことは、
  話半分に聞いてた方が善さそうだと思っただけだ。

 やや切れ長な双眸をちろんと斜に構えるかつての相棒。そんなやり取りの呼吸さえ懐かしく、だがだが、今は畑の違う世界にいる相手だと。残念に感じでもしたか、遣る瀬ない溜息のような吐息をついてから、

 「ま、そういう訳で。
  そんなお嬢様を狙った拉致計画があるぞって話を漏れ聞いたんでな。」

 あんまり深いところまでは言えぬということか、どこの誰とは言わなんだが、

 「近々 国際的な会議がこのホテルで開かれるそうでな。」

 そこまでという言い方をしたのは、せめてものヒントのつもりだろ。会議を混乱の坩堝に叩き込みたかったか、それともそこへとお運びの大物要人を狙うテロ組織にでも依頼されたか。どっちにしたって、もはや逮捕済みの手先級、つまりは“雑魚”であり。

 「小細工するより潰した方が、後腐れもなさそな規模の連中で。」

 とはいえ、警察が出て来るほどの表沙汰になっては何にもならぬ。何か別件を仕立てあげ、それへ関してを通報して…という、微妙に斜めな段取りを組むにはあいにくと時間がなく。そこで、自分が潜入して小細工を構えたところが……。

 「策士 策に溺れたか。」
 「…言うねぇ。」

  おシチが相変わらずゴキブリが苦手なの、よくも知ってたな。
  ああ、それは久蔵ちゃんから聞いてたんだ。

 「でもまあ、
  それがやり過ぎになって感づかれてたんじゃあ何にもならん。」

 仰せの通りでと、口許だけを笑う形に歪ませて見せた、ビジネス界の何でもエージェントさん。さくらのような淡い緋色の口紅引かれ、軽やかなカールのかかった金の髪をおおう、オーガンジーのベールをコサージュで留められて。ミニスカートだの、背中がとんでもなく空いているだの、派手な特徴はない無難なデザインのドレスだが。白いシルクのリボンがあちこちに配され、粒の大きさにグラディエーションを持たせてちりばめられたパールと、それらを透かすレースのパレオ風二重スカートが、熱帯魚や人魚の長々とした尾びれを思わせ、優美にして華やかで。何よりも、ごちゃごちゃしてはない清楚さが、久蔵お嬢様の痩躯には それはよく映えての愛らしく。そんな姿を“素敵素敵”と、赤毛のキュートな少女と手を取り合っての感動している、白百合さんの屈託ない様子が、彼らからの視線を離さない。

 「…せっかくいい時代に転生したんだ。
  穏やかで安らかな日々を送ってくれりゃあいいものを。」

 昔のような苦労ばかりの物騒な時代じゃあない。しかも今度は男女という異性同士となって遭遇出来た二人なんだしよと。これまでのじゃじゃ馬たちの暴れっぷりの数々を、彼も既に知っておいでか、複雑そうに呟く良親なのへ、

 「だよなぁ。」

 いっそ、とっととあの勘兵衛と結婚して、どっちに似ても見栄えはいいが手を焼きそうな子供を何人も作ってくれりゃあいいのに。昔は想像だに出来なかったこと、せいぜい笑い話にしてやんのにさと、今から口許ほころばせ、

 「そうでもなんなきゃ、到底 枷や重しにはならん。」

 征樹が付け足したのへ、そうそうそうとのしみじみした応じが返る。そこのところまで気が合うまんまの“元 双璧”二人が、そんな方向で案じていると、気づいているやらいないやら。可憐な花嫁の傍らに相応しい殿方とやらを、居合わせた男女のそれぞれがこそりと想起する中、

 「…………。(くちん)」
 「おお、警部補殿、お風邪かの?」

 こちらは同じくホテルJの理事長室にて、良親さんの雇い主との面談中だった壮年警部補。不意なくさめに“???”と小首を傾げておいでだったそうな。



  意外な顔が意外な縁にて関わり合いのある存在だったことが知れ、
  今後のお転婆さんたちのやんちゃぶりに歯止めが掛かってくれるのか。
  それとも頼もしい援軍と見なされて、余計に拍車が掛かるのか。


  「さぁさ、そこで それがしと賭けをせぬか。」
  「…………ゴロさんたら。」





   〜Fine〜 11.11.08.〜11.20.

BACK


  *思いの外、手間取ってしまいましたが、
   集中しにくい環境になっちゃったんで そこはご容赦。
   つか、
   いつかはシチちゃんに思い出させたかった良親様。
   とはいえ、警察関係者の恋人だし、
   こういう強引なことを絡ませないと
   無理じゃないのかなぁと思い立っての暴挙です。
   今後は どっちかといや、
   お嬢さんたちへの味方になりそうな気がするんですが…。

   ところで、
   三木家の総帥様ってマロ様じゃいかんだろうか。
(大笑)
   久蔵さんは、
   シチちゃんが双璧をなかなか思い出せなかったように、
   まだ思い出してないの。(…あのキャラをか?・苦笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る